masuika.org つれづれぶろぐ

さぬちゃんの麻酔科医生活


週刊現代の副作用コワイよ祭り、手術コワイよ祭りの顛末を週刊プレイボーイが報道! 講談社 vs 集英社

f:id:msanuki:20160710005732j:plain

 

 数週間前から、あの週刊誌「週刊現代」がいろいろやらかしている。医療現場クライシスとして、先週には週刊プレイボーイがその顛末を報道している。

現実問題として、週刊プレイボーイが報道しているような患者が増え、医療現場ではさらに迷惑を被っている。管理人の家にはもう一人麻酔科医がいる。この麻酔科医も、週刊現代の記事をみてダダをこねる患者の処理に時間をとられ困っているというのである。麻酔科医には術前診察という、手術前に詳細に患者の状態をチェックして診察する機会が必ずある。ここで、あの週刊誌にあった薬をのんでいるけどやめた方がいいかと相談されたり、全身麻酔で手術をしたくないとダダをこねて説得に時間が掛かったことなどの苦情を訴える。その記事に、私が荷担したことになってしまっているため、家でひどく叱られた。麻酔科医は、ただでさえ少ないのに、すんなりと終わるはずの術前診察に時間をとられ、麻酔科医の労務を増加させ過重労働を引き起こす。これでは、患者の命を守るはずの麻酔科医が事故を起こすことにつながりかねない。

 実際、管理人のインタビュー記事が不正に怪しいコメントとして使われ、私自身の名誉を毀損されたことに加えて、医療現場での混乱を引き起こしている。私を知る有能な医療関係者は、そのコメントをみて私がそんなことは言わないことは、分かっているため「ひどい被害に遭ったね。」となぐさめてくれる。また別の友人は、日本麻酔科学会の様な公的団体から厳重に抗議してもらい訂正文を出してもらうように働きかけるとか、訴訟をおこすことも念頭に動いてくれている。私自身も、転んでもただでは起きない性分なので、この記事を書いた記者および週刊現代への100倍返しを着々と進行中である。

 記事は以下、2回掲載されている。特にひどいのは以下のURLにある、

gendai.ismedia.jp

の管理人へのインタビューとして掲載されている引用である。

 ---

全身麻酔では自力で呼吸できなくなりますから、手術がうまくいっても、麻酔から覚めるときに肺に痰などが入って肺炎を起こしたり、脳が酸素不足になって譫妄状態に陥るなど、重い合併症が起きるリスクがあります」(広島大学病院講師の讃岐美智義医師)

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49080?page=3

---

こんなことは、述べていない。適当にインタビューした話から、自分の都合がいいように部分部分をつなげて表現したとしかいいようがない。これを、正しく言い換えると以下の様になる。

全身麻酔は自力で呼吸ができなくなります。麻酔科医がついています。ご安心下さい。全身麻酔をして呼吸ができなくなっても、気道を開通させたり人工呼吸を行うことで手術中にストレスのない身体の状態を維持することができる実力を持っています。麻酔科医は麻酔薬を投与するだけではありません。麻酔薬によって引き起こされる様々な状態に対応することが麻酔科医の仕事です。麻酔科医は麻酔のプロです。」「術前診察は大切です。術前診察時に、これまでにかかった病気、内服している薬や酒、タバコなどについてお聞きします。ウソをつかないように、すべて申告して下さい。特にタバコを吸っている患者さんでは、何年間、何本吸っているのか本当のことを申告して下さい。ご安心下さい。手術が決まればその時点から禁煙をしていただければ、術後に肺炎や低酸素になるリスクを減らすことができます。特に、8週間禁煙が実行できれば、術後の肺合併症が少なくなるエビデンス(証拠)もあります。」「老人などでは、ふだん精神的に何もなくても、手術や麻酔という日常とは異なった体験をしますので、術後にせん妄状態になることがあります。これは、全身麻酔でなくても起こりますので全身麻酔が悪いという話ではありません。せん妄状態は、通常は一過性のもので1週間程度で回復することが多いというのも事実です。」

これを、適当につなぎ合わせて自分の都合のよいような話を作ったと考えられる。そして、この記者のもっとも甘いのは、記事ができあがって掲載する前に、私に査読を受けることなく(みせることなく)掲載してしまったことである。これは、ありえない。

 医学知識もない記者が、このような電話取材だけで正しい記事が書けるわけがない。特に、医学の領域においては必ず、査読をうけて正しいかどうかをみてもらった後に掲載しなければ、間違いを多く含んだ記事になる。

この記事の大半が、この記者の思い込みに基づいた作文であるため、何の役にも立たないどころか読者を震撼させる内容になっているのだ。

また、別の号では、

 

gendai.ismedia.jpのようなタイトルで、私の話としてマイケルジャクソンがプロポフォールでなくなったときの話を引用している。

---

手術に麻酔はつきものだが、その危険性は意外に正しく理解されていない。広島大学病院の麻酔科医である讃岐美智義氏が語る。

「麻酔手術は劇薬を使用するため、正しく使わなければ死と隣り合わせであることを理解しなければなりません。

例えば、マイケル・ジャクソンを死に至らしめたのは、日本でも静脈麻酔薬の主流となっているプロポフォールです。呼吸抑制作用があり、投与中は呼吸状態を監視していなければなりませんが、マイケルを診ていた医師は気道確保すらせずその場を離れ、事故が起きたのです」

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48988?page=3

---

それ自体は誤りではないが、マイケルジャクソンを見ていたのは麻酔科医ではない。この記事は、拙書「やさしくわかる麻酔科研修!」からの引用ではないかと思われる。

 

やさしくわかる! 麻酔科研修

やさしくわかる! 麻酔科研修

 

 

また、麻酔をするためにプロポフォールを投与したわけではない。睡眠薬が効かなかったのでマイケルに眠らしてくれと懇願されてプロポフォールを投与しその場を離れたのである。麻酔薬と睡眠薬は根本的に管理の方法は異なる。麻酔薬を使っているのだから、息が止まることを想定することが当たり前である。麻酔科医の私を雇ってくれていたらマイケルは死ななかっただろう。これを、麻酔薬のリスクと書いてどうする?この記者、麻酔薬がどの様なものかを理解していないかがよくわかる。麻酔をしようと思って麻酔を開始したならば、このようなことには麻酔科医はなんなく対応できる。そして、内視鏡・腹腔鏡手術のリスクのところに続けて、このような、記者自身が理解不十分の例を書いてどうする。テキトーな内容に仕立て上げられたことに怒りを覚える。

 今回の週刊現代の記事について、全体を通して読み取れるのは、読者を不安に陥れる見出しをつけて適当な内容を作話し、売り上げをドーンとあげたいという週刊現代の利己的な所業である。その、ツケは大きいと考えていただきたい。週刊現代の読者を騙すというだけでなく、医療に対する信頼をおとしめたこと、さらに、インタビューした医師の名誉を毀損したことは許しがたい。断固として抗議する。

週刊現代よ!余計なことはせんでくれ!」その頭では、医療記事を正しく書くことはできない。自分の思ったようにあり得ないストーリーで文章を作らないでくれ!社会に多大な迷惑をかけている。

 この文章を読まれて、週刊現代の悪行を報道したい良識のあるマスコミがいることを願うばかりである。

 

 

「麻酔の偉人たち」(総合医学社)がおもしろい!

 

麻酔の偉人たち―麻酔科学史に刻まれた人々

麻酔の偉人たち―麻酔科学史に刻まれた人々

 

 

f:id:msanuki:20160602131109p:plain

先日の日本麻酔科学会の併設書籍展示で購入した「麻酔の偉人たち(総合医学社)」がおもしろい。この書籍の原著「Notable Names in Anaesthesia」は2年ほどまえに入手して、一応、すべて読んで、その時にはふむふむと思ったのだが、現在は、あまり頭には残っていなかった。

 

Notable Names in Anaesthesia

Notable Names in Anaesthesia

 

 今回、この日本語訳を会場で発見して、購入してすぐに読んでしまった。やはり、日本語は頭にすーっと入ってくる。日本語訳がうまいこともあるのだろう。読み方は、好き好きだと思うが、どの偉人の記事も読むとわくわくするものばかりである。ぱらぱらめくっていって、気になる偉人のところを拾い読みするのもよし、まえから順に暇にまかせて読んでいくのもよし。

 この手の書籍には、常に偏見がつきまとう。歴史オタクの学者の興味にまかせて、書かれているのではないか。つまり、われわれの興味があることと、歴史学者の興味があることとは違っているのではないかと言うことである。ひとことで言うと、つまらないという偏見である。

 原著を読んだときにも思ったのだが、本書がそのような本ではないということである。カルガリー大学の麻酔科学のJ. Roget Malyby教授が執筆しているという点で、従来の歴史学書とはちょっと違うのである。原著の序文にも「本書は麻酔の歴史本であるが、麻酔科学史の書ではない。名前を残した人の一生、つまりどの様な人物であったか、いつ、どこで彼らが仕事をしたのか、なぜ、どうしてそのような機器あるいはスコアが作られたのか、さらになぜ、彼らが偉大な指導者なのかなどを理解していただく目的だ」と述べられている。面白い理由は、読者の興味と著者の興味が一致しているところである。つまり、麻酔科学の有名人カタログに写真と業績が載っている。マッキントッシュ、アルデレーテ、アプガー、モートン、、、、超有名人ばかりである。そしてその内容のすごいところを著者が解説してくれているのである。

英語だといくら興味があると言っても、ちょっとハードルが高い。数時間で読み終えることはできないであろう。日本語だとそれが可能である。また、1名ずつの分量が適度な長さであるので、途中で終わっても構わない。

 そして、原著には載っていない華岡清州と青柳卓夫の記事が日本人のよく知った先生の解説で追加されている。原著者に、翻訳者である菊池博達先生と岩瀨義範先生が許諾をえて2名の日本人を日本語版に追加しているのも特筆すべきことだろう。

 だまされたと思って一度、読んでみてもらいたい。麻酔科学をさらに好きになる要素がふんだんにちりばめられている。

 

それぞれの麻酔科学会 〜学会についての一考察

f:id:msanuki:20160529153123p:plain

日本麻酔科学会第63回学術大会が平成28年5月26日(木)〜5月28日(土)に福岡市で開催された。管理人も参加したので、ちょっと感想を書き留めておこうと思う。唐突ではあるが、重要な順に記載していく。

 まず、この学会に行って最も大きな収穫だったことは、帰り際に併設書店に立ち寄って麻酔科学書籍とともに購入した”1冊の本”に出会えたことである。この本が、一般書店に並んでいたならば、おそらく買わなかったのではないかと思う。決して、学会長が執筆された本だから、ヨイショしているわけではなく、本心からすばらしいと思うのだ。購入したその日のうちに、一気に読んでしまった。いずれをとっても歯切れが良く、麻酔科医に求められる態度としては大納得のことばかりである。態度について言葉として表すのは、難しい。表せたとしても、内容や構成によっては反感を買ったりイヤミになったりするものであるが、本書には、そんな部分はみじんもない。言葉の選び方、たとえ方、論理の展開、いずれをとっても誠実な感じが溢れ出ている。ふだんから様々なことを深く考えられていること、何気ないことにも気を配っておられる証拠であろう。麻酔科医であるならば、いや、医療に従事しているならば必読の書籍としてオススメしたい。

 

麻酔科医に求められる態度―麻酔科医ノート〈Part4〉

麻酔科医に求められる態度―麻酔科医ノート〈Part4〉

 

 

つぎの収穫は、ロビー活動でのことだろう。出版社の方、機器メーカーの方と、廊下、展示会場、すれ違いざまにディスカッションやアドバイス、ご意見をいただいた。夫々、短い時間ではあるが、私にとっては頭の中が整理されていき、いま自分の中に抱えているさまざまな問題点について、どう行動すべきかのヒントが見つかった。

 残念だったことについても記載しておこう。一番残念だったのは、今回から、専門医取得のための単位を学会講演の出席で行うようになったことである。そのせいか、いつもはこんなにいないはずの聴衆が、講演会場の入り口に集積し、講演開始時刻に影響を与えたこと。出席の前後で、非接触型のカードをタッチする必要があったこと。これこそが、入口、出口の渋滞を引き起こした原因であろう。タッチするために一人一人が立ち止まるため、スムーズに列が流れないのだ。せめて、RFIDなどでゲートを通過するだけで出席を判定できるシステムを導入いただきたい。それができないのなら、講演と講演の間に移動時間や受付時間を設けるべきである。

 出席をとる講演と出席をとらない講演の間に、集客力のちがいが明かであったことが非常に残念に感じられた。また、すべてとは言わないが、出席をとる講演に限って内容がつまらない、プレゼンが下手な傾向が見られたことは、多くの方の同意を得た事実である。すべての講演を専門医認定の単位として認めれば、このようなことは無くなるであろう。さらには、つまらない講演かどうかの評価を出席者全員に求めれば、次回からはその演者を積極的に採用することはないであろう。

 次に残念だったのは、いつもにも増してポスター会場の聴衆が極端に少なかったことであろう。これは、座長にでも観客数を報告する義務を追わせる、あるいはRFIDなどで集客をカウントすれば、どのセッションが活発でなかったのか、集客がすくなかったのかがわかるだろうし、全体としてのポスター発表の参加人数も把握できると思う。それは、必要ないと学会側が考えられるのであればもっと残念なことである。

 私事であるが、残念だったことが2つある。一つは、生涯ではじめて講演のスライド作成の3つが、”完全”現地生産になってしまったことである。これは、とてもひやひやした。学会前に、予定が山積みでスライドを1枚も作ることなく福岡入りしてしまった。けっしてサボって作らなかったわけではなく、体力的、時間的に作れなかったのである。このような完全現地生産は、二度としたくないと思った。もう一つは、後輩の発表中に、セボフルランに鎮痛作用があると連呼していたことである。セボフルランには鎮痛作用はない。セボフルランを使っている場合、TIVAに比較して体動をおこしにくいのは痛くないからではなく、脳よりも下位の中枢神経系(脊髄などの経路)にも効いているからであろう。吸入麻酔のMACは、痛みの指標ではなく体動の指標である。

f:id:msanuki:20160529171903p:plain

 まとめると、今回の日本麻酔科学会期間中は、充実した日々が過ごせたと感じている。毎年、思うことであるが、学会に行く麻酔科医と学会に行かない麻酔科医、どちらがよい麻酔科医になれるか。答えは、言わない。同じ質問を外科医に投げかけて、どちらに麻酔をかけてもらいたいかを問うてみて欲しい。

 

 本記事のテーマは、それぞれの麻酔科学会というものである。要するに、学会の楽しみは学会に行って講演や発表を行ったり、聴いたりすることにあるのではない。学会が楽しいのは”それ以外の出会い”があることである。出会いは、人であったり、ものであったり、考え方であったりする。それは、決して学会に行かなければ生まれないことである。”学会会場内エリアでないところにのみ”楽しみがあると思っている麻酔科医もいるかもしれない。それはそれで、人との出会いを楽しむ、人の考え方を聞くという点で大きな意義がある。

日常のルーチンな仕事から離れて、学会という特別な場所、特別な時間のなかで、何に感動し何に感銘を受けるかは、個人個人によって異なると思う。そして、それには個人個人の感性というものが大きくかかわっている。つまり、学会の楽しみに気づかない、気づけないというのは、如何にふだんから何も考えていないか、何も感じない生活をしているということだと思う。学会にいって何かを得ようと考えるのは、通常の感覚である。ふだんから、何気ないちょっとしたことにでも楽しみを見つけられる人は、学会を楽しむのは得意ではないかと思う。

 

 

看護師・コメディカル向けセミナー2016

f:id:msanuki:20160424110346p:plain

管理人が講演する「看護師・コメディカルセミナー」の2016年分を公開した。今年は、3月に、4セッションが終了しており、残りは9セションである。毎年、同じようなテーマで開催しているが必ず、テキストはアップデートされ、新ネタや新しい解説アプローチを盛り込んでいる。また、同じテキストであっても会場の雰囲気、聴衆の反応を見てストーリーを変更するという特徴がある。したがって、全く同じテーマを取り扱っていても一度たりとも、全く同じセミナーは存在しない。最近、感じるのは、大阪で開催されるセミナーは、バリエーションが大きい。よく言えば、雑談が充実している。悪く言えば、聴衆のレベルに開きがあると感じている。最も、読めないのは東京でのセミナーである。聴衆が落ち着きすぎていて、ギャグ(面白ばなし)がうけない。「ここ、笑うところですよ。」と促す場面が、多々ある。名古屋は、大阪に近いが、ここも独特な雰囲気がある。福岡は、開催回数が少ないので、まだよくわからないが、東京ほどさめてはいない。ということで、当面の目標は東京でいかに、雑談で聴衆を引き込むかである。

さて、ここからは、セミナーから生まれた書籍の宣伝。2014年秋に行った大阪での一日のセミナーを記録して、ライブ講義として加筆した書籍が発売された。緑色の書籍である。周術期薬の書籍である。予備校の人気講師がよく出しているライブ講義の看護セミナー版である。表紙には、ある薬剤のバイアルに座って、マイどんぶりで、讃岐うどんを食べる管理人が掲載されている。この、表紙が話題を呼んでいる。このバイアルは何か?なぜ、どんぶりに名前が書いてあるのか?である。タイトルは「Dr.讃岐のツルっと明解! 周術期でよくつかう薬の必須ちしき: 病棟ナースにもさらさら役立つ (メディカのセミナー濃縮ライブシリーズ) 」である。うどんとツルッと、さらさらをかけている。著者の名前と讃岐うどんをかけている。いすが、麻酔に使われる薬剤のバイアルである。そして、著者の似顔絵が掲載されている。似顔絵は、よく特徴をつかんでいて若干若作りな仕様で描かれている。これは、イラストレーターさんの配慮であろう。

f:id:msanuki:20160424120752p:plain

 この書籍の特徴を一言で述べると、ライブ講義の雑談から麻酔科が使う薬剤をしっかり学べる本である。この雑談が、ライブ講義の命である。初心者でも、全く問題なくすーっと入ってくるというのが売りである。また指導者の看護師さんにも、説明を真似していただけると思っている。

 ライブと書籍にのちがいは、間の取り方(間合い)が表現できなかったこと、これだけが残念である。それ以外は十二分なデキである。ぜひ、活用していただければ幸いである。これを読んで、ライブ講義を聴いてみたいと思われたならば、管理人のセミナーに参加して欲しい。決して、損はさせない。

www.amazon.co.jp

 

f:id:msanuki:20160424121549j:plain

Dr.讃岐のツルっと明解! 周術期でよくつかう薬の必須ちしき-書籍|メディカ出版

 

また、以前から発売している「やさしくわかる!麻酔科研修」という書籍も、実は看護師・コメディカルのセミナーで話した内容をまとめたものである。管理人の場合、看護師さん向けであっても、決してレベルを下げるのではなく、難しいことをやさしく感じさせるような工夫を入れている。何を話して、何を話さないか。この取捨選択が、難しくしないコツであると思っている。これには、ふだんからの看護師さんたちとの会話が大切なのである。この話は、レベル的に難しすぎると思った場合は、難しく感じるところをそぎ落とす必要がある。これは、かなりの経験やセンスが要求されるところでもある。さらに、この工夫が新たな説明や雑談を生むのである。

f:id:msanuki:20150612005332j:plain

話が難しい先生の場合、たとえが適切でないことがあったり、相手の顔色を見ずに話を進める傾向がある。こうなると、だれも理解できない。このようなテクニックは、研修医や若手の先生、他科の先生に専門的な内容をどの様に提示するか、どう説明するかということに役立つのである。

www.amazon.co.jp

gakken-mesh.jp

 

msanuki.com

 

 

 

WEB連載 麻酔科医の実は… Dr. さぬきがこっそり聞き出すホンネ

f:id:msanuki:20160101214358j:plain

2016年1月号〜12月号のオペナーシングで、「もうびくびくしない Drさぬきレクチャー しっかりじっくり薬剤ばなし」を連載します。また、巻頭マンガ「教えて!Dr.さぬき! 新人オペナースかすみの薬剤ビクビク事件簿」も12ヶ月担当します。さらに、このバナーにある様に、オペナーシングのWEBサイトで「WEB連載 麻酔科医の実は… Dr. さぬきがこっそり聞き出すホンネ」も始まりました。1月号は2015年12月18日に発売されています。麻酔科医が使う薬を、1年間かけてじっくり解説します。書き下ろし連載ですので、新ネタもたくさん用意しています。

WEB連載は、無料で上記のサイトでダウンロードできますのでご一読下さい。第1回は、「アルチバ®って?」です。

麻酔科ハナとマックグラス

 

f:id:msanuki:20151212003003p:plain

www.amazon.co.jp

麻酔科医ハナ⑤の巻頭ページにはMcGRATH MAC(マックグラス)が、エアウェイスコープ(AWS)の新型のような紹介のされ方で登場している。ちなみに、AWSは麻酔科医ハナ②の巻頭ページに大々的に取り上げられていた。2巻は2009年、5巻は2015年に発売されているので、6年で世代交代した形である。麻酔科医には新しもの好きが多いためこの流れは納得できる。さらに、世の中の麻酔科医には、「麻酔科医ハナ」の絶大なファンも多く、この書籍で取り上げられると麻酔科関連の機器の売れゆきにも多大な影響を与えていると管理人は考えている。

 マックグラスというのは、麻酔科医ではなくビデオ喉頭鏡を開発したデザイナーの名前である。今は、McGRATH MAC代表取締役(いわゆる社長)になっている方である。McGRATH MACという名前の由来はマッキントッシュ喉頭鏡に似た構造をしているためである。

 管理人はMcGRATH MACが大好きである。マックグラス氏とお話ししたこともあるし、一緒に写真を撮ってもらったから好きというわけではない。これほど、麻酔科医の感覚にピピッとくる喉頭鏡はないと思っている。オリジナルのMacintoshの使い方を知っていれば、使い方は説明されなくても想像がつく。従来の道具の使い方を生かしたまま進化させたというところが、スゴイのである。

f:id:msanuki:20140516155741j:plain

 拙著のDr讃岐流気管挿管トレーニングを持つマックグラス氏である。右はミーハーな感じで写っている管理人である。

 一方、マッキントッシュ喉頭鏡を開発したのは英国の麻酔科医である。つい最近まで、というか管理人が麻酔科医になった頃(1989年没)まで生きておられた。マッキントッシュは、1955年にイギリス国王から功績をたたえられ、一世代限りではあるがKnightの称号をもらい、マッキントッ シュ卿(Sir Macintosh)となった。Macintoshは、1943年に発表され、いまでも喉頭鏡のゴールドスタンダードである。

Jephcott A:The Macintosh laryngoscope. A historical note on its clinical and commercial development. Anaesthesia 1984; 39:474-9.

 

 Macintosh喉頭鏡の極意は、一言で言うと「面を使う」ということである。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cadetto/magazine/1003-t1/201010/517030.html

 

さて、本題に戻るが、「麻酔科医ハナ」が管理人は大好きである。この本の凄さは、ルビにある。例えば、「動脈ライン」の動脈にはAとルビがふってあり、「心臓麻酔」にはヘルツというルビがふってあるのだ。各診療科の医療マンガが、発行されている今、麻酔科医ハナほど、リアリティーのあるものは見たことがない。どの話しも、実話のようなできばえである。

ちなみに、管理人は、4巻のあとがきに登場している。

msanuki.hatenablog.com

 

こんどは、麻酔科医ハナとコラボで医師向け書籍を作りたいと考えている。「さぬちゃん書籍 featuring 麻酔科医ハナ」である。きっと面白いものができると勝手に想像している。請けていただけるだろうか。

 

 

 

キセる麻酔 「キセってます」

「キセる麻酔」をご存じだろうか.名称があまりよろしくないが,昔のキセル麻酔ではない.昔のキセル麻酔とは,VIP患者の麻酔を頼まれた部長先生?が,導入と覚醒の時だけいて,残りの麻酔維持(意識がない部分のみ)は部下に任せることをキセル麻酔と呼んだらしい.しかし,今の「キセる麻酔」は,これではない.キセる麻酔というのは,著者が定義した新しい言葉である.参考文献には「キセル麻酔」と記述したが,紛らわしので最近は「キセる麻酔」と書くことにした.「キセる麻酔」とは吸入麻酔薬で維持を行い、覚醒させるために吸入麻酔薬を強制的に排出させるために行うプロポフォールへ切り替える方法である.麻酔導入時にもプロポフォールを使用しているので始めと終わりのみプロポフォールを使用するという意味で,たばこの道具「キセル」(カンボジア語)に当てはめて命名した.
「キセる麻酔」では,吸入麻酔薬からプロポフォールに切り替えたことを「キセっている」と表現する.たとえば,「セボのキセるをしていたんだけど,手術が終盤になったので,もう,キセってます.」と言うように使う.
応用編に「ダブルキセル」というのがある。オピオイド(鎮痛薬)のキセルはもちろんだが、鎮静薬のキセルも行う。このことをダブるキセルと呼ぶ。フェンタ-アルチバーフェンタのキセルと、プロポフォールーセボフルレンープロポフォールである。鎮痛薬の方は、コストは度外視、鎮痛薬の方はプロポフォールの消費量を減らすためセボフルレン(2L/min中流量)を併用する。まあそこまでこだわらなくてもよいが、手術が長くても少々肝機能が悪くてもプロポフォールを500mg以内(導入時に用意したTCI用の50mlを1本)で終わらせるので覚醒が遅くなる心配は少ないし、無駄がない。最近は、ダブルキセルオピオイドを上乗せ麻酔としているのでもっとお安い。学術的な意味づけはこれからであるが、アルチバの乗り換えの一つの方法として「上乗せオピオイド」はお手軽で先に書いたようなメリットが期待できると考えている。いかがだろうか。

全身麻酔のあらゆるフェーズで、麻酔薬を適切にのりかえて行うことで、患者および麻酔科医にやさしい麻酔をめざす

一つの麻酔薬に固執することなく全身麻酔を行うことが可能であるが、麻酔薬のきりかえ時には混在した状態が生じうるため、麻酔状態の変化にはの十分注意しなければならない。この状態を、モニタリングするためには、術中脳波モニターが必須である。


【参考文献】麻酔・救急・集中治療専門医の極意(新興交易医書出版) 貝沼関志 編著 ISBN4-88003-659-5
p.72-76 吸入麻酔薬でも時間通りに覚醒させる-「キセル麻酔」もやります- 讃岐美智義

 


1: Liang C, Ding M, Du F, Cang J, Xue Z. Sevoflurane/propofol coadministration provides better recovery than sevoflurane in combined general/epidural anesthesia: a randomized clinical trial. J Anesth. 2014 ;28:721-6.