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つれづれぶろぐ

さぬちゃんの麻酔科医生活

プロポフォールの報道と日本麻酔科学会の注意喚起

f:id:msanuki:20140615214020j:plain6月14日付けの日本経済新聞

麻酔科学会が注意喚起 「プロポフォール」投与巡り :日本経済新聞

という見出しで、以下の様な記事が掲載された。

東京女子医大病院(東京・新宿)で手術を受けた男児(当時2)が鎮静剤「プロポフォール」の投与後に死亡した問題を受け、日本麻酔科学会は14日までに、子供への投与は長期で大量にならないよう注意喚起した。学会は「適正に使用してほしい」と求めている。(以下つづく)

漸く、本質に気づいたのかと思える記事である。日経新聞以外は、これまで意味不明の報道を繰り返し、一般の市民に混乱をあたえ続けたと言っても過言ではない。プロポフォール=悪だから何でもいいから悪い方向に記事をまとめ上げているためだ。もう一度、過去の報道記事を読んでみると、いかにいい加減な理解で記事を書いているかが一般人にも良くわかると思う。特に、以下の2つはひどい。マイケルジャクソンの死亡事例は関係ないし、重篤だと呼吸が止まるから???などと記載している。

 

朝日新聞デジタル:プロポフォールに関するトピックス

東京女子医大病院あきれる医療過誤!子供に使用禁止の麻酔薬で3歳児死亡 : J-CASTテレビウォッチ

 

さて、本題に戻ろう

プロポフォールの投与は、手術や検査における麻酔では小児への使用は添付文書でも認められている。禁忌とされているのは、あくまで小児の集中治療における鎮静という使い方である。日本麻酔科学会のガイドラインでは、そのような表現ではなく「小児への長期大量投与」を禁忌としている。小児への長期大量投与に関しては、以下の様な説明がある。

 プロポフォールによる鎮静後に乳酸アシドーシスを発症し,治療抵抗性の徐脈の発現と不全収縮(心静止)に至る症例の報告がみられており,プロポフォール症候群(propofol infusion syndrome;PRIS)と名付けられた .高用量プロポフォールの長時間投与が誘因としてあげられており,発生機序は不明だがミトコンドリアにおける脂質代謝障害に基づく機序が示唆されている.この症候群が提唱された端緒は小児へのプロポフォールの長期使用であり,このため添付文書には小児の集中治療における人工呼吸中の鎮静に本薬を使用しないこととされている.本薬の適応とされている全身麻酔での使用にあたっても,小児では体重あたりの投与量が成人と比較して多量になるため,特に長時間の麻酔においては他の鎮静薬などと組み合わせるなどして,プロポフォール総投与量の低減をはかることが望ましい.

 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第 3 版 p.429 Ⓒ 2012 公益社団法人日本麻酔科学会

 

従って、日本麻酔科学会の注意喚起では「小児への長期大量投与」にならないようにという注意喚起なのだ。鎮静、麻酔にかかわらずである。

 

マイケルジャクソンが亡くなった理由は、プロポフォールを投与した後に担当医がマイケルジャクソンを観察しておらず、持ち場をはなれたからであって、決してプロポフォールでPRISがおきたわけではない。

プロポフォールはの添付文書には「使用上の注意」2項の「重要な基本的注意[共通]」として以下の様な注意書きがある。これを守らなかった(できなかった)ために死亡したのである。今回の注意喚起とはまったく次元の違う話である。

1.
本剤投与にあたっては、原則としてあらかじめ絶食させておくこと。
2.
本剤投与にあたっては、気道確保、酸素吸入、人工呼吸、循環管理を行えるよう準備しておくこと。
3.
本剤の使用に際しては、一般の全身麻酔剤と同様、麻酔開始より患者が完全に覚醒するまで、麻酔技術に熟練した医師が、専任で患者の全身状態を注意深く監視すること。集中治療の鎮静に利用する場合においても、集中治療に熟練した医師が本剤を取り扱うこと。
4.
本剤投与中は気道を確保し、血圧の変動に注意して呼吸・循環に対する観察・対応を怠らないこと。
5.
本剤投与中は、適切な麻酔又は鎮静深度が得られるよう患者の全身状態を観察しながら、投与速度を調節すること。

 

添付文書のもつ”拘束力”をどう解釈するかは難しい。「医薬品の使用はあくまでも医師の裁量によるべきであり、添付文書が医師に対して拘束力を持たない」1)という考え方がある一方、平成8年1月23日最高裁判断では「医師が医薬品に添付された注意事項に従わず、それによって事故が起こった場合は、特段の理由がない限り医師の過失が推定される」というものがある。

添付文書は法的拘束力のない重要な情報文書であるが「法」ではない。したがって添付文書の適応外の使用あるいは禁忌症への適応が直ちに刑法あるいは薬事法違反に問われることはない。しかし、事故に発展した場合には特別な理由がない限り、過失とされる可能性がある。逆に、特別な理由があれば、過失に問われることはない。

 

(特別な理由で)禁忌とされる使い方が必要であれば、あらかじめ本人や保護者に承諾をえて、カルテや承諾書などの記録に残すことが正攻法であろう。

 

1)三輪亮寿:能書使用方法の拘束力は? 日経メディカル 5/10.1991

 

医薬品の添付文書の記載事項は,当該医薬品の危険性につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が,投与を受ける患者の安全を確保するために,これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから,医師が医薬品を使用するに当たって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず,それによって医療事故が発生した場合には,これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り,当該医師の過失が推定されるものというべきである.

平成8年1月23日最高裁判断

 

 

じつは、日本麻酔科学会の注意喚起

「プロポフォール小児の鎮静使用に関する注意」

は昨日でたのではなく、2014年4月21日に出されている。それに気づいたのが昨日だったのか?それとも日本麻酔科学会が再度、声明を出したのかは明かではない。